アメリカという国での3年。今はあまり覚えていない。

どんな3年間だったのだろう。

日本に帰ってきたけど、日本語は全然できないし、英語ももう出てこなくなった。

僕は今、英語も日本語もできない。

*これはフィクションです。

ぼくについて

ぼくは4歳。トウキョウで育った。まだ1才の弟がいる。

トーマスはもういいかな。電車なんて小さい子のおもちゃだ。

次は仮面ライダーエグゼイドだ。

今度のクリスマスは、サンタさんに仮面ライダーの変身セットを頼もう。

それにしてもサンタさんはどうやってぼくが欲しいものを分かるのだろう。。。

家族について

お父さんは仕事で忙しくて、土曜日と日曜日くらいしか会えないけれど、お母さんはいつも家にいてくれる。

幼稚園に持っていくお母さんのお弁当が一番の楽しみだ。

この前、父の日があった。お父さんの絵を描いたらすごく喜んでくれた。

ぼくはお父さんが喜ぶのが大スキだ。

お母さんが喜ぶのはもっとスキだ。

アメリカ?

あと30回寝たら夏やすみ。

お母さんと朝から夜まで一緒でうれしい!

と思っていたら急にお父さんがこんなことを言ってきた。

「8月からアメリカに行くぞ」と。

アメリカという国があって、ここは日本という国だと説明された。

日本語が分からない人がいっぱいいるらしい。

日本語がわからないなんて、どうやって人としゃべるんだろう。。。

もう幼稚園の友達には会えないということもかなしかった。

少しくらい日本語が通じなくても、ぼくはがんばる。

周りの反応

となりのお家の人とお母さんとの話を聞いた。

なんでもアメリカに行くと、かんたんにバイリンガルになれるらしい

すごいラッキーと言っていた。

バイリンガルってよくわからないけど、スーパーマンみたいでカッコ良さそうだ。

アメリカ

アメリカはとても広い。家は日本の家が3個分あるし、スーパーも広い。

僕の好きなオニギリは売ってないけど、お母さんに作ってもらえるからいいや。

お母さんは、どこでもぼくを車で連れてってくれる。

1人で公園に行けないのはちょっと残念だけど。

プリスクール

初めてのアメリカのプリスクールはビックリだった。

みんな「日本語」ではなく「英語」という言葉をしゃべっているらしい。

お昼の時にとなりに座った子は黒髪で黒目をしていたから、日本人だと思ったけれど、日本人ではなかった。

だって日本語が通じないから。

1日目からお母さんが教えてくれたハローは言えた。

restroomも覚えておいてよかった。

最初はみんなを見て、そのマネをするしかない

どんどん英語が入ってくる。ちょっと頭が痛くなる。

Yes,Go, No, Stop 英語はなんとかなるかな。

みんなが言っていることを、ただマネして言えばいいだけだ。

それにしても1日が長い

時計の針が2のところまでがプリスクールの時間だ。

それまではガマンしよう。

だってお母さんを悲しませたくないから。

言いたいことが言えない?

なんだか最近、日本語が出てこなくなってきた。だからと言って英語もできない。

ただ英語のコトバを使っているだけ。

そんな僕を見て、お母さんもお父さんもなんだか喜んでいる

お母さんたちが喜んでくれるならいいのかな。

でも僕は日本語で言いたいことが言えなくなってきた

お父さんにもお母さんにも分かってもらえない。

伝えられないから叫びたくなる。今日も何度も叫んでしまった。

お母さんは、ぼくが叫ぶからプリスクールの先生に怒られていた。

困らせたいわけじゃないのに。

お父さんもお母さんも喜ばせたいのに。

言いたいことが言えなくて、叫んじゃった

ごめんね、お母さん。

少しずつだけど、みんなが英語で言っていることが分かってきた。

みんなと同じ言葉を言うと反応してくれる。

たぶん、自分が言いたいことと言っていることは同じなのだと思う。そう信じている。

ブランコを乗りたかったけれど

ブランコに乗っている人に「ゴアウェイ」(go away!)と言われた。

まってもかわってくれなかったから、ゴアウェイはかわりたくない時に使うのだと思う。

ぼくも、今度ブランコをかわりたくなかったら、「ゴアウェイ」と言ってみよう。

ぼーっとする

最近、お父さんお母さんが言っていることがよく分からない。

日本語なのに。今までは分かっていたのに。だから、何を言われてもボーッとしてしまう

アメリカの友達が言っていることはなんとなく分かってきた。

日本語はできなくなってきたけど、英語はちょっとだけ分かってきた。

「カンシャクを起こす」とぼくのことをお母さんは他の人に言っていた。

どう言う意味かわからないけど、良くないことだけは分かる。

どんどん英語が入ってくるようになった。

どうしよう。これでいいのかな。

お母さんもお父さんも、そんなぼくを見ても何言わない

これでいいのかな。

日本語が出てこない。デイケアに行っている弟とも英語で話す方がいい。

お母さんはぼくの英語が分かってないようだから、ちょっときたない言葉を使ってもいいや。

「shut up!!」

3年後

もう小学1年生も終わろうとしている。

アメリカに来てもう3年だ。

仮面ライダーのおもちゃはもう弟のものになった。

最近はiPadを使って、youtubeを見ている。

ほとんど英語のだけど。

お母さんは、英語の動画だけ見るように言っていた。

ぼくは日本語ができない。

他の子より日本語ができない。土曜日の日本人学校の国語のテストも50点取れたらいい方だ。

漢字だけは前の日におぼえればいいだけだから、いつも100点取れる。

次の日にはすぐに忘れちゃうけど。

お母さんもなんだか焦っているみたいだ。

だって、お母さんと日本語で話しができなくなっているのだから。

そろそろ「ジュク」というところで勉強した方がいい、とお母さんはお父さんに言っていた。

でも、お父さんは反対らしい。

まだ1年生なんだからジュクは早いって言っていた。

もう日本語なんてイヤだ。

でも、英語が好きかと聞かれると、英語も好きではない。

しゃべれるようになった。先生の言うこともだいたい分かる。

でも、書くのはキライだ。だって書けないから。

しゃべれることと書くことは全然違う

アメリカの友達も読み書きはできていないようだし。

まぁ、いいや。お父さんもお母さんもペラペラしゃべるぼくに満足しているみたいだし。

英検も3級合格できた。

お父さんもお母さんもびっくりしていた。

でも、全部テキトウにやっただけだった。

だって4つの中から選ぶだけだし。あんなのテキトウにできてしまう。

でも、この前お母さんはショックを受けていた。

だって、ぼくのESLの読み書きの点数が全然上がらないから。

帰国

「11月に日本に帰るぞ」とお父さんに言われた。

まただ。またお父さんのカイシャのせいで日本に帰ることになった。

またみんなとお別れだ。

日本はトウキョウじゃないところに帰るらしい。

カナガワって言っていた。トウキョウのとなりらしい。

日本

久しぶりの日本だった。

全部が小さい。

家も小さいし、学校の教室も小さい。

ぼくの日本語はおかしいらしい

なんだか周りの子にバカにされる。

英語もどんどん忘れてきた

まだ1ヶ月しかたってないのに。

自分が英語をしゃべれていたなんて本当だったのかな。

日本の学校はつまらない。

ぼくの日本語はバカにされる。

算数もブンショウ問題になると全然できない。計算だけはできるのに。

なんでこんなことになっちゃったんだろう。

ぼくはお母さんもお父さんも喜ばしたかっただけなのに。

日本語も英語もできない。

ぼくはどうすればいいのだろう。。。

解説

この日記の子は、フィクションであり、相当悪い方のシナリオです。

リミテッドバイリンガルと言います。

アメリカに駐在と聞くと、帰国子女は簡単にバイリンガルになれていいわね、なんて聞きますよね。

でも、良い面だけ強調されてしまい、リミテッドバイリンガルになるリスクはあまり認知されていません。

英語も日本語も中途半端になってしまうのがリミテッドバイリンガル。

年相応の言語力が、どちらかの言語で獲得できていない

言いたいことが言えないので、癇癪をおこす

語彙力が上がらないので、精神的な年齢が上がらない

しゃべれるけれど、読み書きはできない

親と会話ができないと、感情の受け皿がないので、子供は心のよりどころがなくなる。

幼児の頃にアメリカに来ると、バイリンガルになる可能性もあがりますが、リミテッドバイリンガルになる可能性も高くなります。

対応策

この子の場合は、4才でアメリカに来たので、まずは日本語に触れるようにすること。

家庭内は日本語を使っているので、母語をしっかりと確立させることが大事です。

渡米すると最初はどうしても英語をやらせなきゃ!となりがちですが、英語の習得は焦らないこと。

また英語の習得といっても、しゃべることと読み書きは別物です。

現地のプリスクールに数ヶ月通えば、寝言で英語が出るようになるでしょう。

ただ子供が英語をしゃべることで、安心しないようにしましょう

大抵の子供は、反射的に英語をリピートしているだけです。

英語をただ言うのと、英語を使えるのは全然違います。

家では日本語の読み聞かせをやりましょう。

母語でこそ、お父さんお母さんと中身のある会話ができるものです。

中身のある会話をしてこそ、精神年齢も上がっていきます。

読み聞かせを通して、日常では使わない表現や単語に触れさせましょう。

語彙力を増やすことが、母語の確立につながります

まずは母語の確立を徹底しましょう。

そして、日本語がしっかりしていればしているほど、英語の習得も速いものです。

日本語がしっかりしている小学校高学年の子の方が、アメリカに来てからの英語習得は早い。

幼児のうちにアメリカに来ると言うことは、英語を吸収しやすい環境がある一方で、リミテッドバイリンガルになるリスクもあることを認識しましょう。

帰国子女と言っても、現状は厳しいものです。

リミテッドバイリンガルの恐ろしさ、これを知らない保護者の方にお会いすることが多々あり、このようなフィクションを書いてみました。

お父さんお母さんがリミテッドバイリンガルの恐ろしさをわかっていれば、それだけで大丈夫です。

認識あれば、問題の半分は解決したようなものです。

子供は2言語を吸収し、立派なバイリンガルになっていくことでしょう。

子どもはお父さんお母さんが喜ぶ顔が見たいだけ。

子どものためにも、大人が正しい知識を得て、バイリンガルになるために適した環境を整えてあげましょう。

1人でも多くの人に読んでいただき、リミテッドバイリンガルのこわさを知るキッカケになればと思っております。

ライク、シェア、お願いいたします。

 

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