それは私がまだ社会人1年目の時でした。

モノレールに乗ろうと、駅のプラットフォームにて待っている時。

隣にはスーツを着たおじさんが立っていました。

そのおじさんの右手にはジュースの缶が。

おじさんは、ずっとその缶を揺らしていました。

何度も何度も、缶を揺らすのです。

グルン グルン グルン グルン

私は不思議に思いました。

どうして、このおじさんは缶を揺らしているのだろうか、と。

どうして飲まないのだろうか、と。

おじさんは、こちらの頭に浮かんだ疑問には全く答えてくれず、手に持った缶を揺らし続けます。

まるで縦型の洗濯機の内装部分が回るかのように回すのです。

遠心力を利用して、汚れを落とすかのように缶を揺らすのです。

グルン グルン グルン グルン

私はこのおじさんがずっと気になって仕方ありませんでした。

もう、飲もうよ!と。

もう、揺らすのやめようよ!と。

プラットフォームに待っていると、やがてモノレールが到着しました。

おじさんと私はガラガラにあいたモノレールに乗ります。

おじさんは座らず、外の景色を眺めていました。

でも、おじさんは、缶を揺らしたままでした。

グルン グルン グルン グルン

一体、このおじさんは何をしたいのだろうか、私は心底疑問に思いました。

すると、おじさんは私の疑問に答えようと思ったのでしょうか。

ふと揺らすのを止めたのです。

腕が止まったのです。

お!ついに飲むか!

そして、その缶を口に持って行き。

缶を少しだけ傾けると、おじさんの口と缶が触れました。

やっと飲んだ!

と思ったのも束の間、おじさんはまたも、同じ姿勢に戻り、缶を揺らし始めたのです。

グルン グルン グルン グルン

戻すんかい!

もうやめてくれ!

私は心の中で叫んでいました。

その動きを止めてくれ!

お前は洗濯機か!

その時は、残念ながら最後までおじさんを見届けることはできず、私は目的の駅で降りたのでした。

あのおじさんは一体なんだったのだろうか、と疑問を残しながら。

それから

そんな謎のおじさんのことをすっかり忘れていた1週間後。

私は全く同じ駅で同じモノレールを待っていました。

そこには誰もいませんでした。

駅のプラットフォームには自動販売機があり、おいしそうなジュースがありました。

その缶にはグレープの絵が描いてありました。

私は喉が渇いていたので、自動販売機に硬貨を入れ、ボタンを押すと缶が降りてきました。

それを手にすると、そこには、ゼリーと書いてありました。

え?ジュースじゃなかったのか。。。。ゼリーか。。。

なになに?ふるゼリー?「飲む前に、10回ふってから飲んでください」と。

表示には10回ほどふってください、とあったので私は縦に横に15回ほど振ってみました。

まるで炭酸水入りの缶でイタズラする少年のように。

1、2、3、4、5。。。。15

そして缶の飲み口のタブを引き、腰に手を当て、まるで銭湯で飲む牛乳のように私は飲もうとしました。

しかし、缶の中にあったゼリーは全く出てこなかったのです。

地球の引力に逆らってやがるのです。

私は思いました。

え、10回ふるって書いてあって15回もふったのに?

でもタブも引いて、開いてしまった缶だから、もうさっきのように激しくはふれないな。。。

どうやってふろうか。。。

気づくと、私は手首を使って、缶を揺らしていたのです。

グルン グルン グルン グルン

そう。

先週の謎のおじさんのように、私は缶を揺らしに揺らしました。

これでもか、と言うくらい、縦型式の洗濯機のように揺らしました。

腕と手を揺らしすぎると、その反動で体も揺れてしまうのです。

私は全身を揺らしながら、考えました。

洗濯機が遠心力を使えば汚れが落ちるように、ゼリーも飲めるようになるのでは、と。

グルン グルン グルン グルン

そして、ある程度遠心力の効果が現れたであろうとき、その缶を口に持っていきました。

これでゼリーはとろとろになって出てくるはず!

私の腰はそっていました。これでもかとそりにそっていました。

しかし、缶の中身は出てきませんでした。

ゼリーはまだまだ固まっていました。

おぉ、あのおじさんは、こう言う状況だったのか!

私はガッテンがいきました。

グルン グルン グルン グルン

私は缶を揺らしに揺らしました。

ふと気づくと隣には高校生のお兄さんがいました。

そのお兄さんの視線には気づいていました。

気づいてはいましたが、私は黙ってモノレールから見える景色を眺めながら、缶を揺らし続けたのでした。

グルン グルン グルン グルン